マッチングアプリの彼が勧めた副業で326万円被害

詐欺と人間心理の闇

序章:28歳OL、将来への不安と恋愛願望

「また結婚式の招待状か…」

佐々木美咲(28歳)は、都内のワンルームマンションで郵便受けから取り出した封筒を見つめ、ため息をついた。IT関連会社の事務職として働く美咲の年収は380万円。生活に困っているわけではないが、毎月の貯金は数万円がやっとで、将来への漠然とした不安が消えることはなかった。

周囲の友人が次々と結婚・出産していく中、美咲は3年間彼氏がいない。「このまま一人で年を取っていくのかな」という焦りと、「誰かに愛されたい」「経済的に余裕を持ちたい」という願望が、彼女の心の中で渦巻いていた。

そんなある夜、美咲は何気なくSNSの広告で流れてきたマッチングアプリをインストールした。「運命の出会いなんて、そう簡単にあるわけない」と思いながらも、一縷の望みを託してプロフィールを入力した。それが、彼女の人生を狂わせる悪夢の始まりだった。

⚠️ 免責事項

この記事は実話を基にした体験談であり、法律的アドバイスではありません。マッチングアプリ詐欺や偽ECサイト副業詐欺の被害でお困りの方は、直ちに警察(#9110)または消費生活センター(188)にご相談ください。記事内の人物名は仮名であり、実在の団体とは関係ありません。

📖 この記事はこんな方におすすめ

  • マッチングアプリで知り合った相手から副業や投資を勧められている方
  • 「在庫リスクなし」「簡単作業」というネットショップ運営に興味がある方
  • 将来への不安から、副収入を得たいと考えている20代〜30代の方
  • 恋愛感情を利用した「ロマンス詐欺」の手口を知りたい方

💡 この記事で学べること

  • 「SNS型ロマンス詐欺」と「副業詐欺」を組み合わせた最新の手口
  • 偽ECサイトの仕組み(少額の成功体験から高額被害への誘導)
  • 詐欺師が使う「信頼構築」と「心理操作」のテクニック
  • 出金拒否から音信不通に至るまでの典型的なパターン

第1章:マッチングアプリで運命の出会い

アプリを始めて3日目、一人の男性から「いいね!」が届いた。プロフィール写真は、清潔感のある爽やかな笑顔の男性。名前は「リョウ」、32歳。「フリーランスでWEBマーケティングの仕事をしています。趣味はカフェ巡りと旅行です」と書かれていた。

美咲は恐る恐る「いいね!」を返し、メッセージのやり取りが始まった。リョウのメッセージは丁寧で、美咲の話をよく聞いてくれた。「仕事お疲れ様、無理しないでね」「美咲さんの考え方、すごく素敵だと思います」といった優しい言葉に、美咲の心は次第に癒やされていった。

やり取りを始めて1週間後、リョウからLINEへの移行を提案された。「アプリだと通知が遅れるから、LINEで話さない?」。美咲は何の疑いもなくIDを教えた。それからは、朝の「おはよう」から夜の「おやすみ」まで、毎日のように連絡を取り合うようになった。

第2章:疑似恋愛関係の構築「美咲のことを大切にしたい」

LINEでのやり取りは、次第に親密さを増していった。リョウは自分の仕事の成功話や、将来の夢について熱心に語った。「将来的には海外に移住して、のんびり暮らすのが夢なんだ。美咲さんと一緒なら、もっと楽しいだろうな」

まだ一度も会っていないにも関わらず、美咲はリョウに対して特別な感情を抱き始めていた。リョウはビデオ通話もしてくれたが、画面越しの彼は写真通りのイケメンで、話も面白かった。「今度会った時、美味しいご飯ご馳走するよ」「美咲さんのことは、僕が守るから」

甘い言葉の数々に、美咲の警戒心は完全に解けていた。「この人なら信頼できる」「運命の人かもしれない」。そう信じ込んでしまったのだ。

第3章:副業の提案「俺も月30万円稼いでる」

出会ってから2週間が過ぎた頃、話題は将来の生活資金のことになった。美咲が「貯金が少なくて不安」と漏らすと、リョウは待ってましたと言わんばかりに提案してきた。

「実は僕、本業以外にも副業でECサイト(ネットショップ)の運営をしてるんだ。これが結構良くて、月に30万円くらいは安定して稼げてるよ。」

「えっ、すごい!でも私、ネットの知識なんてないし…」美咲が躊躇すると、リョウは優しく説明した。

「大丈夫、知識なんていらないよ。僕が使ってるプラットフォームは、商品の選定から発送まで全部システムがやってくれるんだ。『ドロップシッピング』って知ってる?在庫を持つ必要がないから、リスクはゼロだよ。注文が入ったら仕入れボタンを押すだけ。美咲さんの将来のために、やり方を教えてあげるよ。」

「リスクゼロ」「彼が教えてくれる」という言葉に、美咲は心を動かされた。「リョウさんが言うなら…やってみようかな」

第4章:初回成功体験(3万円発注→5千円利益)

リョウから送られてきたURLから、指定のECサイトに登録した。サイトのデザインは洗練されており、実在する大手通販サイトのようだった。

登録してすぐに、3万円分の注文が入った。「おめでとう!早速注文が入ったね。これを卸業者に発注すれば、差額が利益になるんだ」とリョウからLINEが来た。美咲は指示通り、自分のクレジットカードで3万円を決済し、商品を「仕入れ」た。

数日後、サイト上の美咲の口座には、売上金3万5千円が計上されていた。「本当に稼げた!」美咲は興奮した。リョウの指示通り出金申請をすると、手数料を引かれた金額が美咲の銀行口座に実際に振り込まれた。

「すごい!本当に儲かるんだ!」この小さな成功体験が、美咲を深い沼へと引きずり込むための撒き餌だったとは、知る由もなかった。

第5章:信頼の構築(2回目8万円、3回目15万円で利益獲得)

その後も、8万円、15万円と、少しずつ高額な注文が入るようになった。その都度、美咲は自分のカードや貯金で仕入れを行い、数日後には利益を乗せた金額がサイト上の残高に反映された。

「リョウさんのおかげで、今月だけで5万円も利益が出たよ!」美咲が報告すると、リョウは「よかったね。美咲さんの頑張りだよ。これで二人の将来のための資金も貯められるね」と返してきた。

この頃には、美咲はリョウとこのECサイトを完全に信用しきっていた。「もっと注文が入れば、もっと稼げる」。欲と安心感が、正常な判断力を奪っていった。

第6章:大量受注の罠(300万円分の化粧品受注)

そして運命の日が訪れた。サイトを開くと、「大口注文」のアラートが表示されていた。高級化粧品セット、合計300万円分の注文だ。利益率は通常より高く、これだけで60万円の利益が見込める計算だった。

「300万円…さすがに手持ちのお金じゃ足りないよ」美咲は慌ててリョウに相談した。

リョウは興奮気味に返信してきた。「すごいチャンスだよ美咲さん!こんな大口、滅多にない。これを逃すのはもったいない。カードの限度額を上げるか、消費者金融で一時的に借りてでもやるべきだ。数日で回収できるし、60万円の利益だよ?結婚資金が一気に貯まるじゃないか」

「結婚資金」という言葉に、美咲は決心した。複数のクレジットカードのキャッシング枠を使い、足りない分は消費者金融で借り入れを行い、なんとか300万円を工面した。震える指で「発注」ボタンを押し、指定された口座に300万円を振り込んだ。

サイト上の残高は一気に360万円に増えた。「やった…これで借金も返せるし、利益も手に入る」。美咲は安堵し、夢見心地だった。

第7章:出金不能「税金の支払いが必要です」

数日後、美咲は利益を含めた360万円の出金申請を行った。しかし、画面には「処理中」の文字が出たまま、一向に振り込まれない。

不安になってサポートセンターに問い合わせると、こんな返信が届いた。「お客様の口座は海外からの送金となるため、国際税務規定に基づき、利益分の20%にあたる税金72万円を先にお支払いいただく必要があります。税金の支払いが確認でき次第、全額を送金いたします。」

「税金?そんなの聞いてない!」美咲はパニックになり、リョウに連絡した。

リョウは冷静に答えた。「ああ、そういえば大口の場合は税金がかかるんだった。忘れててごめん。でも、これを払えば全額戻ってくるから大丈夫だよ。僕も前に払ったけど、すぐに戻ってきたし。」

「でも、もうお金がないよ…」

「親に借りるとか、なんとかできない?ここで諦めたら、300万円が凍結されちゃうよ?頑張って、美咲さんならできるよ」

リョウの言葉は、以前のような優しさを欠いているように感じられた。しかし、300万円を取り戻したい一心で、美咲は親に「結婚資金のために必要」と嘘をつき、72万円を借りて振り込んでしまった。

第8章:サイト閉鎖、リョウと連絡取れず

税金を振り込んでから3日後。美咲がサイトにアクセスしようとすると、「404 Not Found」というエラーメッセージが表示された。何度試しても、サイトは開かない。

血の気が引いた美咲は、震える手でリョウにLINEを送った。「サイトが開かないの。どうなってるの?」

既読がつかない。電話をかけても、「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」というアナウンスが流れるだけ。LINEもブロックされていた。マッチングアプリのプロフィールも消えていた。

「嘘…でしょ…」

美咲はその場に崩れ落ちた。愛していたはずの彼も、将来のために投資したお金も、すべてが幻だったのだ。残ったのは、消費者金融と親への莫大な借金だけだった。

📊 統計データ:SNS型ロマンス詐欺・副業詐欺の被害状況

  • 2024年被害総額: 6億円超(静岡県内のみの集計など急増中)
  • 手口の傾向: マッチングアプリからLINEへ誘導し、偽の投資や副業サイトを紹介する複合型が主流
  • 被害者の特徴: 20代〜40代の男女。将来への不安や副業願望を持つ層が狙われる
  • 共通点: 少額の出金を成功させて信用させ、最後に高額な入金をさせて連絡を絶つ

エピローグ:借金を抱えた現実

美咲はその後、警察と弁護士に相談したが、海外サーバーを経由した詐欺サイトの実態を掴むのは難しく、お金が戻ってくる可能性は極めて低いと告げられた。

現在、美咲は昼間の仕事に加え、夜は飲食店でアルバイトをして借金を返済している。リョウとの思い出がフラッシュバックし、男性を信じることができなくなってしまった。

「『簡単に稼げる』『在庫リスクなし』なんて、うまい話があるわけないんです。愛されていると信じていた自分が、本当に馬鹿でした…」

美咲は力なく呟いた。彼女の失ったものは、326万円というお金だけではない。人を愛する心と、自分自身への信頼までも奪われてしまったのだ。

✅ マッチングアプリ詐欺を見抜くチェックリスト

  • マッチングしてすぐにLINEや外部アプリへの移行を求めてくる
  • 出会って間もないのに「結婚」「将来」などの言葉を多用する
  • 「二人の将来のため」と言って投資や副業を勧めてくる
  • 紹介されたサイトが有名企業の模倣や、怪しいURL(ランダムな英数字など)である
  • 「在庫リスクなし」「システムが自動化」など、楽に稼げることを強調する
  • 出金時に「税金」「保証金」「違約金」などの名目で追加支払いを要求される

🆘 緊急相談窓口

「詐欺かもしれない」と思ったら、すぐにご相談ください。

  • 警察相談専用電話:#9110
    (緊急でない相談・不審な副業勧誘の通報)
  • 消費者ホットライン:188(いやや!)
    (最寄りの消費生活センターへ繋がります)
  • インターネット・ホットラインセンター
    (詐欺サイトや違法サイトの情報提供)
  • 法テラス:0570-078374
    (法的トラブル解決の総合案内所)

※被害に遭った場合は、相手とのやり取り(LINE、サイト画面など)のスクリーンショットを全て保存し、最寄りの警察署に被害届を提出してください。

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